構造把握の重要性

構造把握の重要性の一端を示す映画があるので、ここに紹介しておきます。

「マネー・ボール」における構造化

2011年に公開されたブラッド・ピット主演の「マネー・ボール」という映画がありますが、これはアメリカ野球界が舞台の実話で、原題は「不公平なゲームに勝利する技術 (The Art of Winning an Unfair Game)」といいます。

メジャーリーグで最も貧乏な球団オークランド・アスレチックスがなぜ、いつもプレーオフに出場する強豪チームになったのかを、そのジェネラル・マネージャーであったビリー・ビーンの斬新な発想をもとに描かれています。

メジャーリーグに限らず日本のプロ野球でも、財力のあるチームが超高額の年俸で何人もの花形選手と契約してしまうという状況が続いており、「野球はもはやスポーツではなく、マネーゲームになってしまったのではないか」という、その不公平さにロジカルシンキングで挑戦したのがビリー・ビーンGMです。

彼は野球を「27個のアウトを取られるまでは終わらない競技」と定義し、それに基づいて勝率を上げるための要素を論理的に分析したのです。

それまで、あまり重視されず年俸に反映されていなかった、出塁率や長打率といった値をもとにチームを編成・選手獲得することで、低い年俸で戦力を上げることに成功しました。

まさに、野球という競技における勝利の方法を構造化し、巨額のお金に頼らない目的達成のシナリオづくりを行ったわけです。

事実、2002年には年俸総額が1位のニューヨーク・ヤンキースを超える勝率を、オークランド・アスレチックスが記録しています。

ロジカルシンキング

さて、構造化についての意識が日本の企業で定着するようになったのは、最近のことです。

ついこの間までは(あるいは現在でも)、感情や思い込み、また裏付けのない妙な自信によって業務方針を決定する企業は珍しくありませんでした。

偉人の格言やことわざを引き合いに出して、自分の主張の正しさを補強しようとする役員管理職は後を絶ちません。

たとえば「君子危きに近寄らず」と、「虎穴に入らずんば虎児を得ず」は正反対の意味ですが、どちらも経営者が好んで使うことわざです。

高度経済成長期は、それでも企業は売り上げ・利益を伸ばすことが可能でした。

状況が右肩上がりのときは、その波に身を任せていれば誰でも成功できるものですが、現在のように先進各国の経済が低迷している環境の中では、合理的な判断ができなければ、まちがいなく競争から脱落していくことでしょう。

構造化を意識せずに、だらだらと時間ばかり消費する会議を何回も開くのはかつての日本人の得意芸、つまり意思決定のプロセスは、日本人が最も苦手とするものだったのです。

しかし、グローバル化した現在、それでは企業は立ちいかなくなりました。アメリカで始まったロジカルシンキングが導入されることになったのは、必然的な成り行きです。

ロジカルシンキングとは、論理的な整合性を保ったまま筋道立ててものごとを考えることを意味します。「なんだ、当たりまえじゃないか」と思うかもしれませんが、その当たりまえのことが実はたいへん難しい。自分自身を振り返ってみて、ある課題についての条件をもれなくかつ重複なく調べ上げ、そこから論理的な帰結を導き出すという作業が、日々の生活の中でどれだけあるでしょうか。

ふだん私たちは、ものを考えているようで案外そうでなく、単なる好き嫌いで取捨したり、ルーチンの中での処理だったり、またその場の思いつきで判断したりしていることがほとんどです。

これに対してロジカルシンキングでは、目標を明確にして、目標達成のためのシナリオを筋道立てて描きます。その際、重要な役割を果たすのが、「マネー・ボール」の話でも述べた問題の構造化なのです。

(続く)

コメントを残す